ガラスの靴を振りかざして7_緑 (ページ9)

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当事者は私なのに、もういい大人なのに、大事なところを上司に任せっきりにするのはいかがなものかというシンプルな疑問。
私が行ったところで傍観するだけになるだろうけど。
それでもやっぱり、同席するべきなんじゃないだろうか。

「田ノ上さん、」

私も行きましょうか、と不安な顔で小さく伝えれば、田ノ上さんはすかさず首を振った。

「大丈夫、役員の中には付き合いの長い人もいるし、ここは俺に任せてね」

そう言って安心させるように肩を叩き、私も彼の笑顔につられてぎこちなく笑う。

田ノ上さんの「大丈夫」は私の虚勢とは違う、本当の意味での「大丈夫」だと分かっている。
だからこそ、申し訳ない。
言葉が出てこないまま頭を下げれば、えい、と支えの効かない私の体が阿部さんに引き渡された。

「じゃあ阿部ちゃん、このままAちゃんのことよろしくね」
「もちろん」

ちゃんと守ります。

普段より低く、ハッキリとした口調で阿部さんはそう言うなり隣に並び、胸元へ引き寄せるように私の肩を抱く。
思わず顔をあげた。

「たぶん俺は遅くなりそうだから待ってなくて良いよ。楽屋に戻ったら送迎車使って二人で直帰していいからね」

送迎車もマンションの駐車場に停めたままでいいとのこと。
もちろん運転手は阿部さんだ。
怪我をしたとはいえ、至れり尽くせりである。

申し訳なさと阿部さんに抱きよせられた恥ずかしさが私の中でせめぎ合っていた。

ちょっと前までは一緒に居たくない！とまで思ってたくせに。

スタッフさんの案内で、迷路みたいなテレビ局の廊下を一列になって歩きながら楽屋に戻った。

スタッフさんとは扉の前で別れ、阿部さんを先に通してから私も楽屋に入る。
グループが大所帯のため普段は大きめの部屋を使わせてもらっているが、今日は阿部さん一人ということもあり、楽屋もそこまで広くはない。
本日用意されていたのは、和室タイプのこじんまりとした部屋だった。

入ってすぐに靴を脱ぐスペースがあり、小上がりになった八畳ほどの畳ばりのスペースの真ん中には、ローテーブルと座椅子が配置され、その上には未開封のお弁当と飲み物が整えられた状態でいくつか置かれている。

「あれ、阿部さんお弁当食べなかったの？」
「うん。さっきはお腹減ってなかったから後で食べようと思って勉強してたんだよね。さすがにお腹すいたし、どうせならもらって帰ろうかな」

Aさんも持って帰るでしょ？と聞かれ、せっかくだからと頷いた。