・ ページ6
.
背も大きいし、広い背中とかガッシリした肩幅とか、男らしいひかるさんは人目を引いている。
「ごめんなさい、隣に居るのがこんな適当な格好の私で…」
岩「なんで？」
なんでって…どう見たってこんなちんちくりん釣り合ってないでしょうよ…って思ったけどひかるさんは心底不思議そうにしていて、ご自分の魅力に気付かれていない感じだこれ。
岩「適当の基準が分かんないけど可愛いから何も気にすることなくない？」
「えっ」
ダメだこりゃ。
知らない内に好意を抱かれて後々困っちゃうタイプと見た。
「はぁ…罪な人ですね…」
岩「えっ 何が？なんで？」
「クレープ奢ります」
岩「いいの？」
目を細めて嬉しそうにしてるのを見ると母性がくすぐられる。この感じで甘党なの流石に可愛いよねぇ…
餌付けする感覚でタピオカを買ったお店でチョコレートたっぷりのクレープを買って渡すと、キラキラ目を輝かせて「チョコが一番好きなの！」って言うからチョコレートをこの世に生み出してくれた人に感謝したい。
岩「食べちゃってから言うのもなんだけど良かったの？奢って貰っちゃって」
「はい！それはもう全然！
今日1日だけでもとんでもなくお世話になってるので！」
岩「息抜きだって言ったじゃん
気遣わなくて良かったのに」
気を遣ったというかただ甘いものを食べてにこにこしてるところを見たかっただけなので…馬鹿正直にそんなこと言えやしないけど。
ちゃっかり自分用にも買った苺とバナナのクレープを齧る。値段の割に苺がおっきくて得した気分。
岩「他に必要な物とか前の家に忘れ物はない？」
「…無い、ですね」
呆気なかったと思う。
段ボール３つ分の荷物とピアノとドレッサーを運び出したらもうあの家に縋る理由が無くて。
あの人と過ごした3年間ってこんなもんかーって。
結局私は、心から誰かを愛せる人間じゃないのかもしれない。
"理想の家庭"をあの人と過ごすことで体現していただけで、あの人と"家族"になるつもりがあったかって聞かれたら…すぐには頷けない自分がいる。
自己満足でしかなかったのかも。
なんだ、愛想尽かされたって仕方ないね。
岩「…よし。蕎麦でも食べて帰ろっか？」
「え？」
岩「これから側で暮らすことになるわけだし？」
「引っ越し蕎麦って本来私が配るべきですよね？」
岩「細かいことはいーの。隣人じゃなくて同居人なんだし」
「行こっ」ってひかるさんは私の背中をポンと押した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 996人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あむ
| 作成日時：2024年4月5日 23時
