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向「ほい、着いたでー」
「ありがとう」
ザザーって心地良い音がして、潮の香り。
康二くんが連れて来てくれたのは海だった。
まだ海開きもしていない平日のそこには殆ど人が居ない。
私は自然とレンズを覗いていて、
「綺麗…」
太陽の光がキラキラと反射して海面がガラスみたい。
忘れたくないな。
そう思って、ハッとした。
私がカメラを始めたのは、こうして忘れたくない日常を形に残しておきたかったからだった。
撮ることも見返すことも、最近はすっかりご無沙汰になっていたけど…私、写真好きだったな。
康二くんのおかげで思い出せた気持ち。
向「ちょっと座ろか」
丁度いい大木を指差す康二くん。
並んでそこに腰をおろした。
もう充分夏を感じるけど、風が吹いているのもあって暑すぎない。
向「綺麗やなあ」
「ほんとに…綺麗」
さっくんにも見せてあげたいな。
思わず噛み締めていると、ふっと笑った康二くんが私の顔を見た。
向「今 Aちゃん誰のこと思い浮かべたん？」
海のキラキラにも負けない、ビー玉みたいに透き通った目に捕らえられてギクッとする。
…きっと、全部お見通し。
向「Aちゃんさ、朝言うてたん…さっくんのことやろ？」
今朝、リビングで漏らしてしまった本音。
違うよって言うのは簡単だけど、優しく微笑む康二くんには誤魔化したくなくて。黙って頷いた。
向「Aちゃん、分かりやすいな」
「うそ…」
向「さっくんは気付いてないやろうけどな！
俺らにはバレバレやで！」
すぐ顔赤なるもんなーって言われてしまって、冷や汗が出た。
「あの、どうなりたいとかそういうのじゃないの…
ちゃんと隠すから、だから…まだあの家に居させて欲しい…」
これがワガママだっていうのは分かってる。
本来なら、みんなの信頼を裏切ってしまったんだから出て行かなければならないのに…
向「なんか難しいことぐるぐる考えてるやろ？」
「へ…？」
向「みんな思ってたと思うで？
時間の問題やろなーって。
それでもAちゃんがうちに来ることを受け入れたんやから、大丈夫や。」
みんなAちゃんにおって欲しいんよ。
康二くんはそう言ってクスッと笑う。
いつも無邪気な康二くんは、時々こうして少し大人っぽい笑顔を見せるから、歳上なんだよねって思い出す。
向「見て？」
目の前に差し出されたカメラの画面。
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作者名：あむ
| 作成日時：2024年4月5日 23時
