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佐久間side。
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ツーとAちゃんの頬を雫が伝った。
「Aちゃん、泣いてる…」
そんな穏やかな寝顔で、どんな夢を見てるの?
その夢に、佐久間はいる?
…いたら泣かせたりしないか。
いや、夢の中の俺がすっげー悪者の可能性も…
そんなしょうもないことを考えてたら、「あのさ、」って少し重たげな照の声が俺の思考を掻き切った。
岩「今日、Aさんの前住んでた家に行った時…多分俺しか気付いてないんだけどリビングのテーブルの下にメモが落ちてて。」
「メモ?」
岩「Aさんが残したメモだと思う。
その子らしい綺麗に並んだ控えめな字がね、滲んでた。」
…それが何を示すのか。
何故か俺は聞きたくない気がした。
岩「ソファーに無造作に置かれたブランケットと、テーブルの空き缶とか見てたら多分そこで元彼は寝起きしてるんだろうなって感じで…
Aさんが唯一残したもの、毎晩眺めてんじゃないかな。」
阿「…そっか。そいつからしたら恋人がいきなり姿を消したんだもんね。」
「……Aちゃんのこと裏切っといて、未練あるとか言っちゃう?」
失ってから気付くぐらいの気持ちなら、最初から出逢わないで欲しかった。
ガラスより脆いのに強いフリをするこの子に、傷をつけるだけつけてやっぱり手放すのが惜しいなんて傲慢だ。
「大事にしてくれない奴のところには帰せねぇよ」
ハンドルを握る手につい力が入る。
今夢の中で誰を想って泣いてんの?
夢でもそいつに泣かされてんの?
もう傷つく必要ないんだよ。
Aちゃんの目尻をそっと拭う。
阿「もう帰る場所はひとつでしょ」
思わず振り向くと、阿部ちゃんが目尻を下げて穏やかに微笑んでいた。
岩「佐久間。前見て。」
「あ…ごめん」
信号は青になっていた。
危うくクラクションを鳴らされるところだった。
でも、そうだよ。
Aちゃんも、振り向かないで前だけ見てて。
辛い過去より楽しい未来を一緒に見ようよ。
阿「Aちゃんってなんか消えちゃいそうだよね」
「うん、わかる。」
どこが、なんでって説明するのは難しいけど…
普段はにこにこ明るくって元気いっぱいなのにふとした時に見せる表情が朧げで、儚くて、頼りない。
花びらみたいにヒラヒラ散ってどっかに行っちゃいそうな時がある。
きっと俺と出会う前。
そうさせる何かを…この子はずっと抱えてる。
「落っこちないでよ…?」
ほんとの椿の花みたいにさ。
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作者名:あむ | 作成日時:2024年4月5日 23時